連日の猛暑です。
こんな日でした。 ワシは、自転車を降りて家までの長い坂道を歩いて居た。 西大村中学校二年生のワシでした。

父の仕事に便利だと云うだけで、何故こんな山の中に我が家が在るのか少し不思議に思って居た。
だって、父は車に乗っているし、この山の麓には、幾らでも土地は在るでは無いか?
父は僕の母や、この僕に嫌がらせのつもりでこんな山の中に僕等を追い込んだんだ。
半ば 本気でそんな事を考えながら、この長い坂道を、登っていた。
自転車という奴は、下りは快適だが、こんな登りは、全く無用の長物だ。 重い。額からは玉の汗が噴出す。
左側に桑畑を見ながら もう少し進むと、左斜めに折れる農道が在り、
幾らか家まで近い事も有り。 僕は、専らそちらの道を、使って居た。
桑畑を過ぎると、Sのお婆さんの畑が有る。
全くの偶然なのだが、この山道沿いにポツリ ポツリと有る家は、三件続けて同じ苗字だ。
苗字が、同じなのでよく親戚か?と聞かれたものだが、全く三件とも何の繋がりも無かった。
Sのお婆さんの家は山の登りがけに、門番の家のように建って居た。

お婆さんは、僕の家のすぐ裏にも田んぼを持っていたが、
一番のお気に入りは、件の農道左手前に有る広い畑の様で、大体何時もこの畑に居た。
この畑のいちばん上、道路側に丸い大きな石が有った。
畑仕事の休憩にお婆さんは何時もこの石に腰掛けて居た。
そして、今日も、一仕事の後だろう。石に腰を掛けて汗を拭きながら畑を眺めて居た。
この場所は、大体僕の家までの道程の中間点だ。
「こんにちは」と、挨拶すると 声は聞こえないが、にっこり笑ってお辞儀をした。
全くのよそ者であった我が家に対して 何処かこの土地の人達はよそよそしかったが、 このお婆さんは、別で 何時も優しかった。
僕も、お婆さんが、好きだった。
それにしても暑い。 お腹も減った。
早く家に帰りたい。

やっと家だ。 家の裏に自転車を停める。
玄関に廻ってドアノブに手を掛けた
瞬間 電気が走った。
お婆さん。
一ヶ月前に死んだのでは無いか?
僕は、今まで登って来た道を振り返った。
空はどこまでも蒼く
遠くにモクモクと、入道雲が湧き上がって居た。